1998年4月 - 2002年3月東京大学卒業 理学部 物理学科

2002年4月 - 2004年3月 東京大学大学院 理学系研究科物理学専攻 修士課程

2004年4月 - 2007年3月 東京大学大学院 理学系研究科物理学専攻 博士課程

1978年11月20日生まれ。東京都出身です。

研究内容

この研究室では、量子情報科学の研究をしています。
特に量子暗号通信・クラウド量子計算といった応用を見据え、遠距離量子通信技術の研究を主に進めています。

 

量子中継に向けた量子技術研究

●量子もつれ光子対源
  量子もつれ光子対源は量子情報科学において極めて重要なリソースです。代表的な2体間の量子もつれであるベル状態が、光子の偏光自由度に関して成立している場合、発生した2光子の偏光が完全に一致(もしくは直交)します。この性質を利用して、量子鍵配送などの量子情報処理を実行することが可能になります。 量子もつれ光子が量子メモリに吸収され、光量子状態が物質量子状態として格納されることが、長距離量子通信に必須の量子中継器では重要な機能です。 その時問題となり得るのが、量子メモリ物質の遷移周波数幅です。我々が研究している量子メモリ:プラセオジム添加YSO結晶には、およそ5MHzのスペクトル幅以内に光入射を留めないと、効率的な吸収・保存ができません。ところが従来の量子もつれ光源のスペクトル幅はそれより数桁広いため、もつれ光子の生成率は落とさずにスペクトル幅を狭めることが必要になります。 私達の研究では光共振器導入によりその問題を解決します。量子もつれ光子生成の非線形光学過程:パラメトリック下方変換を光共振器内で発生させると、共振条件を満たす狭いスペクトルの量子もつれ光子が発生します。また共振器増強効果によって、その共振スペクトル内の光子発生率は共振器を用いない場合と比較して桁違いに高まります。 私達は、光ファイバー中を低損失で伝送することが可能な通信波長において開発に取組み、世界最小線幅(~1MHz)の量子メモリと高効率結合可能な量子もつれ光子対源を実現しました。図は、開発2光子源の出力である2光子間の時間差測定結果です。包絡線の減衰から線幅を評価することができ、また全体のカウント数からスペクトル輝度を求めることができます。



●波長変換
 光ファイバーを低損失で光子伝送するには、通信波長が必要ですが、伝送光子量子状態を量子メモリーに高効率で吸収・保存させる際には量子メモリ吸収波長が問題になります。我々が開発しているプラセオジム(Pr)添加YSO結晶における吸収波長は606nm近辺にあり、このままでは通信波長光子を受け入れられません。そのために非線形光学過程:和周波発生にもとづく波長変換装置の開発が必要になります。

●量子メモリ
 量子メモリは、量子通信において波長多重化や時分割多重化といった多重化による通信レート増強可能なことが重要です。その多重化用メモリとして、希土類添加結晶をもちいて研究しています。 我々は特に結晶の不均一広がり(~10GHz)をもつ吸収スペクトルの中に、高強度狭線幅レーザーによって飽和吸収を起こすことでホールバーニングエリアを生成し、その中に鋭い櫛状吸収ピークを並べる原子周波数コムという手法による多重化を研究しています。この方法によって、櫛となるピーク群スペクトルのフーリエ変換に対応する時間的に連続した光パルス列を吸収・保存し、フォトンエコーとして高効率で再生することが可能になります。

●周波数安定化
 量子もつれ光子を量子メモリに効率的に結合するには、スペクトル幅が狭いだけではだめで、狭い遷移周波数帯域に対してアクティブに周波数安定化を施す必要があります。 上記各要素である量子もつれ光源励起レーザー、もつれ光源共振器、波長変換励起レーザー、量子メモリ制御レーザーの安定化はもとより離れた要素間の相対周波数を把握し、量子もつれ光源光子と波長変換励起レーザー光子のエネルギー和が量子メモリ遷移周波数に正確に一致する必要があります。量子もつれ光源励起レーザーを光ファイバー伝送して、光コムとのビート測定によって遠隔地にある量子メモリ遷移周波数に常時安定化するシステムなどの研究も行っています。本要素に関して同じ物理工学コースの洪研究室と共同研究を行っています。